安全で安心な乳房再建用人工脂肪の実現に向けて

2021年7月に開催された「第6回滋賀テックプラングランプリ」にファイナリストとして登壇した「レナートサイエンス」は、グランプリの翌月に法人化。安全で安心な乳房再建用人工脂肪の実現に向け、株式会社レナートサイエンスとして新たなスタートを切った。研究開発担当として参画した滋賀医科大学の荻野 秀一氏は、大型動物実験による研究開発を進めている。
世界初、自家脂肪に置き換わる人工脂肪
2013年、女優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、遺伝子検査の結果を受けて、乳がん予防のために両乳房切除・再建手術を受けていたことがニュースになった。乳房の再建には、自家複合組織移植、自家遊離脂肪移植、シリコンインプラントの挿入といった方法が用いられるが、それぞれ課題も多い。そこで、京都大学大学院 医学研究科 形成外科 教授の森本 尚樹氏(京都大学)、グンゼ株式会社と荻野氏(京都大学在学時〜)は、ポリL乳酸(PLLA)でできたメッシュの内側にコラーゲンスポンジを入れた、新しい人工脂肪を開発した。これは、生体内で分解吸収され自家脂肪に置換される、世界初の人工脂肪だ。自家組織を犠牲にすることなく、自然な形態・触感の乳房を再建できる。グンゼ社が高度管理医療機器の許可を受けている素材を使用しており、安全性も高いのが特徴だ。
動物実験による技術コンセプトの検証
これまで荻野氏は、ラットやウサギといった小・中型動物実験によって、技術コンセプトの検証を行ってきた。たとえば、ラットの鼠径部の皮下に新しい人工脂肪を埋入して経過を観察したところ、PLLAメッシュが1年間にわたって内腔を維持し、その内部に脂肪が形成されているのを確認している。ウサギを用いた実験では、埋入1年で形成された脂肪が2年後にも維持されていることが明らかになった。 2019年に滋賀医科大学に赴任後は、大型動物を用いた実験を進めている。PLLAメッシュに人工脂肪30個を入れてひとかたまりにしたものをブタ乳頭(乳房)皮下へ移植したところ、思わぬ問題が見つかった。手術の6か月後に脂肪形成を確認したのだが、12か月後で、PLLAメッシュが壊れてしまい、脂肪が形成されるはずの内腔が押しつぶされてしまっていたのだ。現在は、その解決に向けてPLLAメッシュの改良を進めている。
動物実験の最終章、そして臨床試験
荻野氏は大学院生時代、この人工脂肪の技術を開発した森本氏に師事していた。今回、恩師に誘われてチームに参画することとなった。「乳房再建は、患者さんの負担が大きい手術。手術する医師のストレスも大きく、この新しい人工脂肪は、その両方を減らすことができる。実用化には、とても意味があると思います」。動物実験が終わっても、ヒトを対象とした治験・臨床試験を経て実際に世の中で使われるようになるまでには数年以上かかる。レナートサイエンスは、この長い道のりをチームで乗り切る、スタートラインに立ったところだ。
滋賀テックプランター vol.06 (2022年7月 発刊)
