新金属で強さとしなやかさのジレンマを吹き飛ばす

チーム名
+R粉体工学研究センター
代表者
川畑 美絵
所属
立命館大学 総合科学技術研究機構 准教授
参加
第5回滋賀テックプラングランプリ
受賞
三井化学賞

ボルトやナットなどの工業部材、医療用器具など、私たちの生活を支える道具に用いられる金属材料。用途によって強度や性質は様々だが、特に安全が求められる現場で求められる性質はシビアで、強度と柔軟性のトレードオフに悩まされてきた。川畑氏が所属する+R粉体工学研究センターは、そうしたトレードオフを突破する技術の開発、実用化に挑戦している。

構造材料の抱えるジレンマを突破せよ

 産業界で用いられる構造材料の多くの金属部材は、原料である金属粉を金型に入れて圧縮し、高温で焼結する「粉末冶金」で作られる。そうして出来上がる部材は、大小さまざまな金属の結晶が均一な状態で焼き上がることで強度を高める。しかし、強度を高めることによって、失われる性質がある。それがしなやかさだ。硬いものほど、パキッと折れやすくなることは想像に難くない。このトレードオフの性質は、例えば医療で使われる手術用器具などでは重大な問題となりうる。繊細な作業用に小さく強く作る必要がある一方で、器具が欠けて体内に残ってしまわない安全性が求められるのだ。現在、この悩ましいトレードオフを突破できる新規材料の開発が急務だ。

ヒントは自然界にあり

 川畑氏らのチームは、あるとき自然界に不均一な構造が多く存在することに気がついた。例えば、貝殻は成長と共にそのとき食べた餌が殻に蓄積していくという、強度の高い積層構造を持っている。また、ハチの巣は正六角形状の筒が敷き詰められており、断面に粗と密な状態が並ぶことで、強度と柔軟性を併せ持つハニカム構造になっている。ここからヒントを得、構造材料に均一性ではなく、粗密をあえて創り出し、強度としなやかさの両立を実現できるのではないかと仮説を立てた。実際にステンレス鋼で実験したところ、粉末に加工を施し焼結させることで、ステンレス鋼のしなやかさを保ったまま、強度の40%向上に成功した。粉末冶金の特性上、粉末化できる金属であれば種類を問わないため、組み合わせ次第では様々な可能性を秘めた発見だ。

金属材料に革新を起こしたい

 同チームは社会実装を目指し、滋賀テックプランターにエントリー。現在は、パートナー企業への材料提供や共同研究に向けて、ディスカッションを重ねている。並行して、機能性の分析も進め、現在では、高熱伝導率・低熱膨張率や電気伝導性など様々な特性が見いだされ、より実用的な材料開発が進んでいる。今後は、さらなる実用化や事業化のために、機能性の追究とスケールアップを目指している。「既存の粉末冶金プロセスに、粉末加工のプロセスを追加するだけで社会実装が可能なため、現在の加工容量1Lというラボスケールを、試作スケールの110L、量産スケールの14000Lへと一気に押し上げたい」と意気込みを語る。構造材料のかかえるジレンマを吹き飛ばし、ものづくりの基盤をアップデートする同チームの今後の発展に注目だ。

滋賀テックプランター vol.05 (2021年4月 発刊)