空気の質を保証し、ウィルスから人類を守る

結核やインフルエンザなど感染者の咳やくしゃみに含まれる空気中の微粒子(エアロゾル)を介した伝播が想定される細菌・ウイルスは多い。畜産現場においてもウイルスによる病気の被害は深刻であり、その予防や拡大を防止するための技術開発は急務である。私たちの周りに細菌・ウイルスがどのくらいいるのかを調べることが可能となれば、空気の質を保証することができる。長浜バイオ大学の長谷川慎氏はそんな世界の実現を目指し、空気中微粒子のモニタリング技術を開発している。
現場の課題を解決するために
アフリカでは、5歳未満児の主な死亡原因の9%が下痢であり、今でも1年間に58万人が亡くなっている。もともと食中毒の毒素の研究をしていた長谷川氏は、論文や調査報告書などから、世界的に未だ大きな課題が残されていると感じていた。実際に、アフリカの研究者と話してみると、下痢を引きおこす時期は季節や雨季乾季で大きく変動し、原因となるウイルスなど微生物の伝播の兆候を把握することが必要とわかった。そこで、ウェアラブルなエアロゾル捕集装置と、そこに含まれるウイルスを含む付着微生物を定量する技術開発を行った。
アフリカで病原性微生物を検出する
まず、エアロゾルの分離捕捉とその分析を行うために、手のひらサイズで人が身につけてサンプル採取できる小型のデバイスを作成。電池駆動のエアポンプで吸入口から空気を取り入れ、層状に配置したフィルター膜でエアロゾルの分離と捕捉を同時に実現する装置だ。次に、高感度蛍光検出によるウイルス・微生物の迅速検出装置の開発に成功した。この技術は、共焦点レーザー光学系を利用した光子計数法を基盤として、蛍光標識抗体の分子量変化を鋭敏に検出する。その結果ウイルスや微生物を従来法に比べて30倍以上高感度に検出することを可能とした。さらに次世代シーケンサによる網羅的細菌種同定を行うことで、培養が難しく、微量にしか存在しない細菌の網羅的検出を可能としている。実際に発展途上国(ケニア)での感染症フィールド調査に用い、環境中の非結核抗酸菌や敗血症原因菌の検出にも成功している。
大学研究の事業化可能性を探る
社会的な課題とその解決方法について、大学の研究としては成果をあげ、企業と連携して製品化にも成功した。しかし、実際に現場への実装やビジネスモデルの構築、開発した技術を社会へ普及させていくには大学中心ではなかなかうまくいかないと感じることも多かったという。そこで、多数の企業からニーズを集め、研究成果を社会実装するチャンスを得るために滋賀テックプランター に参加し、東洋紡賞と最優秀賞を受賞した。現場の課題から生まれた、世界を変えうる技術であることが評価されたのだ。現在、パートナー企業とディスカッションを重ねると共に、これまで会うことのなかった異分野の人たちの視点を参考に畜産分野への応用など可能性は広がった。滋賀発の技術により、地球上の生き物をウイルスから守る世界の実現が楽しみだ。
滋賀テックプランター vol.03 (2019年5月 発刊)

高感度迅速抗原検出装置

キャプチャ「エアロゾル捕集装置」