若き起業家が挑む、 ストレスの概念の転換

チーム名
株式会社イヴケア
代表者
五十棲 計 [代表取締役CEO]
所属
滋賀大学大学院教育学研究科修士課程2年
参加
第3回滋賀テックプラングランプリ(旧チーム名:Hairtech Lab.)

2019年1月、滋賀大学発ベンチャー第1号が生まれた。第3回滋賀テックプラングランプリのファイナリストであるHairtech Lab.を前身とする、株式会社イヴケアだ。少量の毛髪でストレス関連物質を分析できる技術を元に、毛髪が健康を予測する新社会の実現を目指す。同社の代表取締役CEOは、滋賀大学大学院教育学研究科修士課程2年(2019年4月現在)の現役学生、五十棲計氏である。2017年7月時点では、滋賀テックプラングランプリに見学者として参加していたというが、そこから起業までの1年6ヶ月の間にどのようなきっかけや出会いがあったのか。そして今後、滋賀から世界へ打ち出していきたいビジョンとは何かを聞いた。

自分の信じる道を選択する

 五十棲氏は、2017年、大学4年生のときに滋賀大学大学院教育研究科 大平雅子准教授の研究室に入った。大平氏の研究は、毛髪に蓄積したストレスホルモンを分析・測定することで、ストレスを客観的に評価できるというもの。中高時代に生徒会長やバスケットボール部部長を経験する中で、いじめや人間関係で誰かに精神的な負荷がかかってしまうことに対して、どうにかできないかと考えていた五十棲氏には、大平氏の研究内容を聞いたとき、ふっとアイデアが浮かんだという。「学校の健康診断などに応用することができるのではないか?人間関係で苦しんでいる生徒をケアできるのではないか?自分自身が課題に感じていたことの解決につながると感じたんです」と五十棲氏は語る。実はこの時既に企業への就職が内定していたが、このまま就職をするのか、それとも研究を続けるのかという迷いが生じた。そこで選択の決め手になったのは、やりたいことを実践している大平氏を純粋にカッコいいと自分自身が感じていることに気づいたことだ。「妥協をしたくない」。その思いで研究の道を選んだ。

人との出会いが新たな選択肢を与えてくれた

 研究を続ける中で、得られた知見を社会に実装していきたいという思いが徐々に芽生えていった。そのことを大平氏に相談したところ、株式会社リバネスが主催する超異分野学会へ一緒に参加することを提案してくれた。「そこにはアカデミア、大企業、ベンチャー企業、町工場、中高生など様々な人が集まり、異分野で連携し新たなプロジェクトを生み出す場があると聞いたんです。まずは飛び込んでみようと思いました」。そこで出会った株式会社リバネスの代表取締役副社長CTOの井上氏と、起業に向けた話で盛り上がった。しかし、大平氏は大学教員の立場もある中で、代表になることは難しい。その時選択肢としてあがったのが、五十棲氏が代表となることだった。これまで「起業」という選択肢を考えたこともなかったが、「議論の中で自分自身がやりたいことは研究のみではなく、研究で得られた知見を社会に実装していくところまでだと考えられるようになったんです」と当時を振り返る。その日のうちに起業することを決め、一気に歯車が回りだした。前年は見学者として参加していた滋賀テックプラングランプリでは、ファイナリストとしてプレゼンテーションを行い、パナソニックアプライアンス社賞を受賞した。その後東京で行われたバイオテックプラングランプリにおいても、竹中工務店賞と日本ユニシス賞を獲得した。そして、その躍進は滋賀大学の位田学長をも突き動かした。これまでに前例がなく、ベンチャー認定制度を有していなかった滋賀大学だが、たった数ヶ月の間に、滋賀大学発ベンチャー認定制度が整えられ、2019年1月に第1号ベンチャー企業として株式会社イヴケアが設立されたのだ。

ストレスの概念を変える挑戦

 あっという間に事が進む中で、多くの悔しい経験もあった。特に、企業との商談の際に、大平氏の方を向いて話されることがすごく悔しかったという。一方でその経験は、自身が代表であることの意味を深く考える機会となった。「技術面においては、まだまだ大平先生に劣ることが多いです。ただこの技術を通じて、どんな世界を創りたいかについては、誰よりも魅力的に語ることができる。それこそが自分の役割だと感じたんです」と力強く語る。  株式会社イヴケアは今、五十棲氏、大平氏に加えて、臨床心理学を専門とする滋賀大学教育学部の芦谷道子教授を加えた3名で走り出している。今後、大平氏の技術を用いた「毛髪からの慢性的なストレスの評価」、そして芦谷氏の技術を用いた「ストレス評価後の適切な支援」を組み合わせたサービスを展開していく。そしてそのプロセスの中で挑戦するのが、「ストレスの概念の転換」だ。ストレスは一般的に悪いイメージが先行してしまうが、一概にそうとは言えない。ある程度の負荷がかかっていたほうがパフォーマンスが高い時もある。「私たちは、ストレスをなくすのではなく、それとどのように付き合っていくのかを考え、笑顔ややる気に満ちた世界を創りたいと思っています」と語る五十棲氏。若き起業家の挑戦が、始まる。

滋賀テックプランター vol.03 (2019年5月 発刊)

毛髪による非侵襲的な慢性ストレスの評価

第3回滋賀テックプラングランプリにてパナソニックアプライアンス社賞を受賞