音の持つマイナス要素をプラスに変えて 人類の発展に寄与する

「文明の発展が、騒音の発展であってはならない」。立命館大学の西浦敬信氏は、超指向性スピーカーを用いた空間シェアリングによる最適な空間づくりや、人に不快な音を快音化する騒音環境追従型不快感抑制システムを開発。音と情報処理のテクノロジーを駆使した社会課題の解決に取り組んでいる。
技術開発で音のストレスから人を守る
総務省の平成29年度公害苦情調査によると、地方公共団体の公害苦情相談窓口に寄せられる苦情件数は大気汚染や悪臭を超えて騒音問題が最も多い。しかし、スピーカーの技術は誕生以来、大きな変化はなく、騒音問題の増加に対して、技術が追いついていないのが現状だ。ここに、まだ大きな研究の余地があると感じ、西浦氏は音と情報処理に関する研究を開始した。
空間シェアリングと快音化技術
西浦さんが開発した空間シェアリングは、指向性の高い超音波スピーカーを活用した応用技術だ。本来、聞こえない音域である超音波を可聴化するには、対象者の耳の近くで超音波による「うねり」を作ることが必要だが、高い指向性ゆえに対象者が少しでも頭を動かすと聞こえなくなる。そこで、超音波をある1点に集め、さらにそこから音波を拡散させることで、うねりができる範囲を広げることに成功。これにより、同じ部屋にいながら、一方では激しい音楽とともにエアロビクスを、もう一方ではゆったりとした音楽でヨガを楽しむということも可能になる。物理的に同じ空間にいながらも異なる音空間を作り出す「空間シェアリング」を可能とした。 また、騒音を検知し、その原因を追従して音を被せ、聴覚的にマスキングする技術「騒音環境追従型不快感抑制システム」も開発した。人にとって不快な音を聴覚的にマスキングして心地よい音に変えることで、避難所やオフィスなどの共同生活空間でのストレスを軽減する。実証実験では、心拍数や官能評価から騒音による不快感(ストレス)が低減されることがわかった。
異分野の出会いがビジョンを育む
社会実装に向けて、すでに多くの企業との共同研究を進めていたが、いざ実用化を意識したプランを考えてみると、実際の現場の課題など具体的な情報が不足していることを実感した。そこで社会の反応を確認するために、滋賀テックプランターに参加。その中で印象深かったのは、自治体の方々と話をするなかで、暗く危険な場所で、音により生活の安心安全を創り出すことができるのではないか、など新しい課題の発見が得られたことだ。「分野や組織を超えて様々な声を聞くことでビジョンが広がり、研究の展開に幅ができた」と西浦氏は話す。音を自在に操ることで、私たちの生活はどこまで快適になっていくのか?西浦氏の研究成果の社会実装が楽しみでならない。
滋賀テックプランター vol.03 (2019年5月 発刊)

三代目快音化スピーカ